<ストレス障害とは>
職場、家庭、その他の人間関係の悩み、仕事のつらさ、過去の非常につらい思いをした体験の記憶など、さまざまなストレスが長引いて精神的な苦痛が強まり、不安、抑うつ気分、不眠、食欲低下、体調不良、先延ばし、生きづらさなどの不調が続く状態です。診断としては、身心にストレス反応が生じる「適応障害」と、過去のつらいできごとの記憶によるストレス反応に悩まされる「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」が挙げられます。
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- 家庭、職場、プライベートな関係での他者との意思疎通がうまくいかない、業務や家事が過酷である、パワハラ、モラハラなどの被害を受けているなどの状況では、「やりたいことができない」「やりたくないことをしなくてはいけない」「努力しているのに評価されない」「安全に過ごしたいのにそれができない」、「思い出したくないできごとの記憶が突然思い出される」など、さまざまな葛藤(ストレス状況)が長く続きます。
適応障害
- 強い葛藤が長引くと、それに反応して強い感情(不安、ゆううつなど)が生じ、精神的苦痛となります。さらに、その葛藤や苦痛を避けようとする行動がかえって状況を悪化させて悪循環となり、次第に不眠や食欲低下、身体不調などの自律神経症状が加わってきます。そのために家庭でも職場でもプライベートでも思うように活動できなくなり、社会的な困難も強まります。このような状態のうち、精神科的診断基準を超える状態を適応障害と診断します。適応障害は不安、うつ、逸脱行動などを伴います。
- 適応障害の治療においては、葛藤(ストレス状況)を軽減するための環境調整、心理的な対処の向上、不安や自律神経症状を軽減するための薬物療法を患者様ごとの優先順位に沿って実施します(必要な場合には併用して実施することがあります)。薬物療法は必要最低限に留め、環境調整を検討します。また、心理教育的アプローチ(ACT、認知行動療法(CBT)など)、支持的精神療法のいずれかより主治医が適切と判断するものを選択して実施します。
- 病状が適応障害から始まったとしても、うつ症状が悪化して診断基準を超えた場合にはうつ病との診断となり、抗うつ薬を主剤とするしっかりとした薬物療法が優先されます。そのうえで、症状改善や再発防止のためには環境調整や心理的対処の向上も大切な要素となります。
- 環境が適切に調整されても適応障害が長引く、あるいは、反復する場合、過去の心的外傷に関わる体験が関係していたり、生まれ持った特性としての神経発達症(自閉スペクトラム症、注意欠如多動症など)による困難が関係している可能性が考えられます。このような場合には、背景にある障害についての理解を深め、対処することが必要となります。
- また、治りにくい適応障害の一部はいわゆる神経症と呼ばれる病状に進展することがあります。不潔恐怖や確認強迫などが続く強迫症、病気の原因がないのに身体症状を自覚し不安が続く身体症状症、きっかけなく突然の過呼吸などが生じるパニック症などが挙げられます(これらについては不安症状のページをご参照ください)。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)障害
- 事件や事故、災害、いじめ、虐待、長期にわたるハラスメントの被害などが誘因となり、そのようなできごとに関する記憶(トラウマ記憶)がきっかけがなくても突然思い出され、被害を再び体験しているかのように感じるフラッシュバックなどの再体験症状、不眠や強いイライラなどの過覚醒症状(被害に再び遭わないよう自分の外側にバリアを張っている状態)、特定の場所や外出自体を避けたり、ボンヤリとして現実感や幸せな感情が失われてしまったように感じる、あるいは、被害に関することがよく思い出せないなどの回避・精神麻痺症状(外傷的記憶が想起されないように自分の内側にバリアを張っている状態)などが続く場合には急性ストレス障害と診断します。さらに、それらの症状が長期間持続する場合には心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断します。PTSDには、うつ病や他の不安障害が同時に診断されることもあります。
- 幼少期や児童期における虐待の被害や、長期にわたるいじめ、ハラスメントの被害によるPTSDの場合には、感情調節や自尊心の確立などが特に困難となる複雑性PTSDと診断することがあります。
- なお、被害者の方の訴えがPTSD診断を満たさないとしても、それは被害者の方に精神的苦痛がないという意味ではありません。状況によってはPTSDや適応障害に準じた支援や治療をおこなうことがあります。
適応障害やPTSDへの治療として当院では、抗うつ薬や抗不安薬を主体とした薬物療法、不安や恐怖反応の軽減を目的とした認知行動療法、不安とつきあいながら行動できることを目的としたACT(第三世代行動療法)の中から患者御本人に適した治療法を選択して用います。